研究内容

生物を構成する重要な構成要素であり、 われわれの日常生活の中で偏在しているソフトマターと呼ばれる物質の物性を物理学的視点から研究を行っています。 さらに得られた情報をもとに、生物および生命現象を物理的に理解することを目指した研究を行っています。

(1) 光でミクロなソフトマターを"操る"、"測る"

回折限界程度のサイズまで急速に絞ったレーザー光を用いて周囲の媒質より屈折率の高いミクロンサイズの物体を3次元的に捕捉し, 自由に操作することができます(光ピンセットと呼ばれています). 我々は,ミクロの指である光ピンセットを用いてミクロンサイズのソフトマターを変形させたり,動かしたり, 構造を作成するなどのミクロ操作を実現しています.また,光ピンセットをミクロなバネとして用いることで, ミクロンスケールの物体の間に働く相互作用を直接測定しています. 例えば, 液晶中に微粒子を分散させると,水などの液体の場合とは異なり,液晶が方向の秩序を持っているために, 微粒子間に異方的かつ長距離の巨大な力が働きます.我々はこれを利用して液晶中で粒子をさまざまな形で接着させることで, 例えば図1のような複雑な配列を作成するにも成功しています. さらに現在は,ホログラフィーを用いて1つのレーザーからさまざまな空間パターンを作り出し, 例えば多数の粒子の操作(図2)とこれを用いた多粒子間相互作用の研究を行っています. 特に(微生物のモデルとして)ミクロンスケールの粒子が外部から絶えずエネルギーを注入された 非平衡状態(動的平衡状態とも言える)での集団運動やパターン形成に関心を持って研究を進めています.

(2) ヤヌスコロイドの自己組織化

直径数10nm~ mの微粒子はコロイド粒子と呼ばれ,我々の身の回りの食品,化粧品,インクなどから, 自然界のタンパク質,鉱物微粒子等まで,様々な場面で重要な役割を果たしています. 従来は"等方的"なコロイドの研究が主でしたが,近年はより実態に近い"異方的"なコロイドへの注目が高まっています. 我々は異なる2つの半球からなる異方的微粒子(ヤヌス粒子)を用い, 従来のコロイドにはない興味深い構造への自己組織化現象の発見や,その物理の解明に成功しました. これからも先駆的な成果を目指し,様々な異方的コロイド系の研究に取り組んでいます.

(3) ソフトマターの非平衡構造の解明とその普遍原理の探索

ソフトマターは,原子・分子系よりも大きな単位構造が小さな力で結合しているために,小さな刺激で大きく応答し, かつその応答が緩やかであるために,非線形・非平衡系を容易に実現可能な系です. 例えば,液晶系に交流電場を印加すると定常的な電流の流れの発生に伴って,図4のような規則的なパターンが発生します. 電圧(非平衡度)を変化させると様々なパターンが発生する相転移が観測されますが, これらは平衡系の構造と異なりエネルギーの注入と散逸の動的平衡によって形成される非平衡構造です. 非線形非平衡系の物理には未だにその原理となる法則が発見されておらず,未知の研究領域です. 我々はソフトマターを用い,このような普遍原理を探索する研究も行っています.

(4) 粉粒体の離散媒質特有の巨視的な振る舞いを理解する

私たちの身の回りには、公園の砂山から、調味料、粉末薬など各種の粉粒体が存在しています。 また、自動車の交通流や歩行者の流れ、砂漠での砂丘の形成ダイナミクス、更には土星のリングを形成する粒子の集団運動など、 幅広いスケールにおいて粉粒体の運動と見なすことのできる現象が多々知られています。 各々の粒子に対しての運動方程式や力のつり合いをもとめるには要素の数が多すぎ、 粒子の離散性の故に連続体としての近似が破綻する傾向があります。 粉粒体を一般的に離散媒質とみなすと、通常の液体や固体とは全く異なる扱いをする必要があり、 物理学的にも未開拓であると言えます。我々は離散媒質の巨視的振る舞いの一般的な理解を目指して、 理論・実験・数値計算を用いた総合的な研究しています。 粉粒体は粒子同士が非弾性衝突を起こし、エネルギーを散逸します。 回転や振動といった力学的擾乱を受けると、与えられた駆動と散逸がバランスして、 自発的に時空間構造を形成することがあります。例えば、種類の異なる粒子を混ぜて揺らすと、 同種の粒子が集まり分離現象を起こすことがよく知られています。 我々は、水平に置いた円筒容器の内部に種類の異なる2種類の粒子を入れて、 回転させたときに観察される粒子の相分離現象について実験を行っています。